飼い主さんのサポートが愛犬の癒しにも
シニア期に入った愛犬は、体力や筋力の低下に伴い、これまでスムーズにこなせていた行動が少しずつ難しくなっていきます。
排泄のタイミングが不安定になったり、段差を嫌がったり、食事のペースが落ちたり——
これらは特別な病気ではなく、加齢に伴う“自然な変化”です。

しかし、適切な介護をすることで、これまでと同じように安心して生活できます。
ですので、飼い主さんも過度に不安を抱える必要はありません。
ここでは、シニア犬に特に必要となる「排泄ケア」「移動サポート」「食事補助」の3つの基本について、今日から使える実践テクニックをまとめて解説します。
シニア犬の排泄ケアの基本
まず大前提に排泄の失敗は叱らない。
環境づくりがいちばんのサポートになります。

排泄の失敗が増えるのは、自然な身体変化
シニア犬は膀胱括約筋の弱まりや、トイレまで行く体力がなくなることで、排泄の失敗が増えることがあります。
これは“飼い主のしつけの問題”ではありません。
ここで叱ってしまうと、犬は「排泄そのものが悪いこと」と誤解してしまいます。

誤解して、排泄を我慢してしまうことで体調を崩す可能性も。
まずは「失敗は当たり前」という心構えを持ちましょう。
生活スペースにトイレを複数設置する
シニア期に入ったら、トイレを1か所だけにするのは負担になります。
以下の工夫が効果的です。
- 寝床から2〜3歩で行ける場所にトイレを設置
- 障害物を置かず、まっすぐ向かえるレイアウトを作る
- 廊下やリビングにも簡易トイレを追加する
「行きたくなったらすぐ行ける」環境は、成功率を大きく上げてくれます。

介助が必要な場合のサポート方法
後ろ足が弱い子は、排泄時に体を支える補助が必要になることも。
そんなときは、タオルをお腹の下に通して軽く持ち上げる“タオルリフト”が便利です。
- タオルの両端を持って軽く体重を支える
- 犬のバランスを壊さないようにゆっくり補助する
- 体を過度に持ち上げず“倒れないように支える”イメージ
愛犬の尊厳を守りながら、排泄の成功をサポートできます。
シニア犬の移動サポート
歩ける時間を少しでも長く伸ばす「負担の少ない動線づくり」が大切です。
段差・階段の“バリアフリー化”が最重要
シニア犬がケガをする原因で多いのが、ちょっとした段差や階段です。
加齢による視力低下や判断力の低下もあるため、環境を整えることが大切です。
- 階段は必ず柵をつけて封鎖
- ソファの前にステップを置いて負担を軽減
- ベッドは低めのものに変更するか、床で一緒に寝るレイアウトに
段差を減らすだけで、日常のトラブルはかなり減ります。

滑りやすい床は転倒のもと
移動サポートの中心は「滑らない床を作る」ことです。
歩く時に踏ん張れないと、筋力はさらに衰えてしまいます。
- 滑り止めマットを家全体に敷く
- 廊下は特に長めのラグを活用
- 古い爪は滑りやすくなるため、定期的に爪切りを
床対策は、シニア犬の QOL(生活の質)を大きく左右します。

ハーネスや介護用サポーターの活用
足の衰えが進んできたら、サポート用ハーネスがとても便利です。
前後を包み込むタイプ、後肢のみ支えるタイプなど様々あります。
- 散歩のときにバランスを取りやすくなる
- 室内で立ち上がるサポートができる
- 腰への負担を軽くできる
道具を使うことで、飼い主の腰痛予防にもつながります。

寝返り介助のコツ
寝ている時間が長くなると、同じ姿勢で体が痛くなったり床ずれが起きやすくなります。
2〜3時間に一度、優しく寝返りをサポートすると快適に過ごせます。
- お尻と肩をゆっくり支えて体を反転
- 急に持ち上げず、滑らすように動かす
- 寝床には低反発マットや体圧分散ベッドを使う
苦しくない姿勢をこまめに作るだけでも、負担が大きく減ります。

シニア犬の食事補助
“自分で食べられる力”をできる限りキープできるようにサポートしてあげましょう。
食べるスピードが遅くなるのは自然なこと
シニア犬の食事量やペースは変動しやすくなります。
歯の衰え、嗅覚の低下、飲み込む力の弱まりなどが原因です。
「前より食べない=病気」と結びつけず、まずは食べやすい環境づくりを整えましょう。

食器の高さを調整して“食べやすい姿勢”にする
前かがみの姿勢がつらくなるため、食器スタンドがとても役立ちます。
- 肩と同じ高さ〜少し低い位置に食器をセット
- 低すぎると首に負担、高すぎると飲み込みにくい
- フードボウルは浅めで滑りにくい素材がベスト
姿勢が整うと、食事の集中力も戻ります。

ドライフードはふやかすと負担が減る
歯が弱ってきたシニア犬には、フードをお湯でふやかすだけでも大きな食べやすさになります。
- 40〜50℃のお湯で10〜15分ふやかす
- 消化もしやすく、胃腸の負担が軽くなる
- 香りが立つため食欲アップの効果も
食欲が落ちているときは特におすすめの方法です。

食事を手で支える“手添え介助”
食器が動かないようにそっと手を添えてあげるだけでも、シニア犬は安心して食べられます。
- 食器の横に手を添えて固定する
- 無理に口へ運ばず、犬が自分で食べるペースに任せる
- 落ち着ける静かな環境で食べさせる
「一緒に食事している安心感」が、シニア期にはとても大切です。

寝たきりの場合の食事介助
寝たきりの子の場合、姿勢づくりが最重要になります。
- 体を横向きにし、頭を少し高くする
- むせないよう、少量ずつゆっくり与える
- 食後はしばらく体勢を維持して胃の逆流を防止
食事は「無理に食べさせない」ことが大切で、食べる体力がない日は潔く休むことも必要です。

愛犬のペースを尊重し、無理をさせない介護を
シニア犬の介護に正解はありません。
犬の性格、健康状態、生活スタイルによって必要なサポートはすべて変わります。
しかし共通して言えるのは、“できないことを責めず、できることを一緒に探す”という姿勢。
その姿勢が、愛犬の安心と自信につながるということです。

排泄・移動・食事。
この3つは毎日の生活の中心であり、少しの工夫で愛犬の負担が驚くほど軽くなります。
完璧を目指さず、あなたと愛犬に合った方法をゆっくり見つけていきましょう。
シニア期は、とても穏やかで優しい時間が流れる大切な時期。
あなたの手で、愛犬にとって最も幸せな毎日を作ってあげてください。


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